『イン・ディス・ワールド』

2002年 イギリス
監督:マイケル・ウィンターボトム
出演:ジャマール・ウディン・トラビ、
    エナヤトゥーラ・ジュマディン
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 この作品が訴えているのは、難民が亡命することの危険や過酷さだ。やむをえない状況での最後の手段でしかない。家族や文化など、失うものが果てしなく大きい世界だ。だけど僕は、問題を訴えるためだけに作ったんじゃない。難民が豊かな未来を求め、すべてを捨てる姿を描きたかったんだ。
 ── マイケル・ウィンターボトム監督
  
 パキスタンの難民キャンプで生まれ育ったアフガン人少年のジャマールは、従兄のエナヤットとロンドンへ亡命することになった。得体の知れない運び屋たちによって、パキスタンからイラン、トルコ、イタリア、フランスを通り、イギリスへと向かう旅は、常に死の危険と隣り合わせ。何度も挫けそうになるが、決して諦めない、だってあの地平線の向こうには、幸せがあると信じているから……。
  
 この作品は、2003年のベルリン国際映画祭でグランプリと共に、エキュメニカル審査員賞を受賞した。ベルリン国際映画祭のエキュメニカル審査員賞は、プロテスタントとカトリックの映画関連団体のメンバー6人が審査員となり、人権や平和などのテーマを取り上げ、キリスト教精神に一致した作品に贈られている。
 日本に生きる私達のほとんどは普段、難民キャンプで生きる人々のことを考えることなく生きている。しかしこの世界には確実に、難民として、移民として、亡命者として、一生懸命生きている人々が存在する。そのことを、映画はドキュメンタリー・タッチで描く。
 「全キリスト教会の」という意味を持つエキュメニカルは、ギリシア語のオイクメネーに由来し、その意味は「全領土」「人が住む世界」なんだとか。映画は今この世界に住む、地平線の向こう人々を知る機会を与えてくれる。
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 ベルリン国際映画祭のエキュメニカル審査員賞を受賞した作品は『イン・ディス・ワールド』の他にも、次のような作品がある。この賞の受賞作品には、異なる立場で生きる者への寛容の心や過去に犯した罪の悔い改めなどを、社会問題をベースにして描いたものが多い。
カトリック系学校の女性教師とパキスタン人青年との恋愛を軸に人種差別問題を描いた  ケン・ローチ監督によるイギリス映画『やさしくキスをして』
文革の時代、都会と田舎で離れて暮らす恋人の純愛と周囲の人々との交流を描いた チャン・イーモウ監督による中国映画『初恋のきた道』
荒れた都会の生活で心すさむ老女と母親を亡くした少年が、少年の父親を探す旅を描いた ウォルター・サレス監督によるブラジル映画『セントラル・ステーション』
死刑執行を目前にした死刑囚と心理カウンセラーをする尼僧との交流を描いた ティム・ロビンス監督によるアメリカ映画『デッドマン・ウォーキング』
      
日本キリスト教団出版局『信徒の友』2008年4月号 「ビデオをみる」より修正・転載
この転載については、日本キリスト教団出版局の許可を得ています。
日本キリスト教団出版局 公式サイト :  http://www.bp.uccj.or.jp/index2.html
  

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